「140か所攻撃」の報道が伝えていないこと——ホルムズ海峡と日本の話

2026年7月14日 | 国際情勢・エネルギー


7月12日、米中央軍がイランの軍事目標約140か所を攻撃した。

今週3回目の攻撃で、3夜にわたる一連の作戦で攻撃した標的は計300か所を超えた。標的はミサイル・ドローン基地、海軍施設、弾薬貯蔵施設、通信ネットワーク、沿岸監視拠点——イランが船舶を攻撃する能力そのものを削ぐことを狙った作戦だ。

ヘグセス国防長官はSNSにこう書いた。「イランは愚かな選択をした。今、彼らはその代償を払っている」。

このニュース、多くの人はどこか「遠い話」として受け取っているかもしれない。でも、そうではない。この戦闘が起きている場所は、日本のエネルギーの大動脈と直結している。


ホルムズ海峡とは何か——30秒で理解する

ペルシャ湾とアラビア海を繋ぐ、幅わずか約50キロの海峡。

世界で海上取引される石油の約20%、LNG(液化天然ガス)の約20%がここを通過する。日本にとっては輸入原油の約9割、LNG輸入量の6.3%がこの海峡を経由している。

細い喉元のような地形だ。ここが塞がれると、中東からのエネルギー供給が一気に止まる。

実際に今年、それが起きた。


今年2月28日に何があったか

今年2月28日、米国とイスラエルがイランへの大規模軍事攻撃(作戦名:Operation Epic Fury)を実施した。

翌3月1日から、ホルムズ海峡の通航量は激減した。封鎖前には1日平均約95隻が通過していた海峡に、西側の主要商業輸送が実質的に止まった。4月時点での1日の通航確認数は3隻。

この「実質封鎖」状態がその後も断続的に続いてきた。

4月8日に米国とイランが即時停戦に合意し、WTI原油先物価格は一時1バレル117ドル63セントから91ドル05セントへ急落するなど、市場は停戦期待で大きく動いた。だがその「覚書」をイラン側が順守しなかったとして、今週の攻撃が行われた。

つまり今週の「140か所攻撃」は突然始まった話ではなく、今年2月から続いてきた米イラン軍事対立の、最新の局面だ。


「備蓄があるから大丈夫」は本当か

日本には約8か月分の石油備蓄がある。これは事実だ。

ただし「備蓄があること」と「コストが上がらないこと」は別の話だ。

ホルムズ海峡の通航制約が長引くと、日本が向き合うのは「コスト急増」と「需要減退」の二重ショックになりやすい、というのが専門家の見立てだ。

具体的に何が起きているかというと——

原油価格の高止まり:代替ルートとしてサウジアラビアのヤンブー港からの輸出が増加しているが、輸送コストが高く、原油調達コストの押し上げ要因になっている。

電気料金への波及:電力会社の燃料費調整制度を通じて、原油・LNG価格の上昇は数か月遅れで電気料金に反映される。今夏から秋にかけて、家庭の電気料金がさらに上がる可能性がある。

円安との相乗効果:原油はドル建てで取引される。円安161円台という状況と組み合わさると、円換算での調達コストは二重に膨らむ。


イランはなぜホルムズ海峡を封じようとするのか

ここを理解しないと、この紛争の構造が見えない。

一見すると、ホルムズ海峡の封鎖はイランにとっても損害が大きそうに思える。実際に中東産油国はホルムズ海峡を自国の輸出ルートとして使っている。

しかし三菱UFJ銀行の経済調査室はこう指摘する。「ホルムズ海峡の封鎖は、米国よりも、むしろイランに対して比較的友好的な中国を含めた第三国に広く影響が及ぶ」。

つまりイランがホルムズ海峡を「武器」として使うとき、ターゲットは米国ではなく、エネルギーを中東に依存する日本・中国・韓国・インドなどの国々だ。「お前たちに痛みを与えることで、米国への圧力を間接的に高める」という戦略だ。

ただしこの戦略には自己矛盾がある。封鎖が長引けばイラン自身も孤立を深め、国際社会での立場が悪化する。だからイランも完全封鎖には踏み込みきれず、「脅し」と「実力行使」の間を揺れ動いてきた。


今週の攻撃で、状況はどう動くか

今週の米軍による140か所攻撃は、イランの「海峡を攻撃する能力」そのものを削ぐことを狙った作戦だ。

ミサイル基地、ドローン施設、通信ネットワーク——これらを破壊することで、イランが船舶を狙う物理的な能力を低下させることが目的だ。

イランは報復として、カタールなど周辺5か国の米軍施設を攻撃した。

この「攻撃と報復」のサイクルが、停戦に向かうのか、さらにエスカレートするのか——現時点では予断を許さない。

市場の反応を見ると、今週の攻撃直後には株価と原油価格が乱高下した。「イランの軍事能力が削がれれば海峡が安全になる」という楽観論と、「報復でさらに拡大する」という悲観論が綱引きしている状態だ。


日本が今できることと、できないこと

日本にとってこの問題は、完全に「他国の話」ではない。

エネルギー安全保障の観点から見ると、日本の現状はかなり脆弱だ。石油の中東依存度は約9割。代替調達先の開拓は長年の課題だが、一朝一夕には変わらない。

日本が今できることは限られている。

カタールへの石油の安定供給要請(高市首相がすでに実施)、IEA加盟国との備蓄放出協調、海上自衛隊による自国船舶の護衛活動の検討——これらは手を打てる範囲だ。

一方でできないことがある。ホルムズ海峡の紛争そのものに軍事的に介入することは、現在の日本の法的枠組みでは困難だ。エネルギー調達先の本質的な多様化には数年から数十年の時間軸が必要だ。

「今の自分たちには何もできない」という無力感を持つ必要はないが、「日本は構造的に脆弱な状態にある」という現実からは目を背けてはいけない。


まとめ

  • 7月12日の米軍によるイラン140か所攻撃は、今年2月からの米イラン対立の最新局面
  • ホルムズ海峡は日本の輸入原油約9割が通過する大動脈。封鎖・制限が続くと、原油高→電気料金上昇→円安との相乗効果というルートで家計に直撃する
  • 日本には約8か月の石油備蓄があるが「備蓄=コスト上昇なし」ではない
  • イランがホルムズ海峡を「武器」として使う本当のターゲットは米国ではなく中東エネルギー依存国(日中韓など)
  • 今週の攻撃後、停戦に向かうかエスカレートするかは依然不透明
  • 日本のエネルギー安全保障の構造的な脆弱性は、この紛争が終わっても変わらない

「140か所攻撃」という数字は衝撃的だが、その背後にある構造——ホルムズ海峡という日本の喉元、円安と原油高の相乗効果、8か月の備蓄が意味することと意味しないこと——を理解することが、この問題を「遠い話」ではなく「自分ごと」として捉える第一歩だと思う。


参考:CNN(2026年7月12日)、読売新聞(2026年7月12日)、三菱UFJ銀行経済調査室レポート(2026年4月3日)、三井住友DSアセットマネジメント・市川雅浩氏(2026年4月9日)、新電力ネット・コラム(2026年4月29日)、資源エネルギー庁「石油備蓄の現況」(令和8年2月)、JETRO「中東情勢の悪化に伴い、ホルムズ海峡の通航が停止状態」(2026年3月4日)

本記事は個人の見解に基づく情報提供を目的としており、投資判断・政治的立場の表明を行うものではありません。


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