長期金利2.81%。「骨太ショック」が引き金を引いた——日銀シリーズ第4弾

2026年7月7日 | 経済・金融政策


このシリーズも4回目になった。

5月28日に「逆ざや」を書いた。6月22日に「日経72,000円は本物か」を書いた。6月26日に「円安の正体はドル高だ」を書いた。そして今日、長期金利が一時2.81%をつけた。

1997年5月以来、29年ぶりの高水準だ。

前回(5月18日)に2.8%に乗せたときも「29年ぶり」と書いた。それが7月3日にさらに上を試し、2.81%まで上昇した。つまり「29年ぶり」の記録が、わずか1ヶ月半で更新された。

何が起きているのか、整理してみたい。


「骨太ショック」という引き金

今回の金利急騰を語る上で外せないのが「骨太ショック」という言葉だ。

政府が毎年6月ごろに策定する「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」の原案が報じられた際、「適切な金融政策運営が行われることも非常に重要」という文言が盛り込まれていた。市場はこれを「政府が日銀の利上げに圧力をかけようとしている」と読んだ。

日銀の利上げが遅れるなら、インフレはさらに進む。インフレが進むなら、国債の実質的な価値は下がる。だから国債を売ろう——という連鎖が起きた。

さらに高市首相が補正予算案の編成検討を表明したことで、赤字国債の追加発行への懸念が一段と広がった。財政拡張への警戒感と利上げ遅れへの懸念が同時に顕在化した、それが「骨太ショック」の正体だ。


金利上昇の「3つの震源地」

今の長期金利上昇には、3つの力が重なっている。

① 日銀のQT(量的引き締め)という構造的な圧力

日銀は2024年7月から国債買い入れの段階的な縮小(QT)を進めている。これまで日銀が「最後の買い手」として国債を大量購入することで金利を低く抑えていたが、その買い支えが着実に減っている。需給が緩むほど、国債の価格は下がり金利は上がる。これは一時的な現象ではなく、構造的に金利が上がりやすい地合いになっているということだ。

② 中東情勢による原油高とインフレ圧力

米国とイランの戦闘終結交渉が停滞し、原油価格が高止まりしている。原油高はインフレを押し上げ、インフレが進むと名目金利は上昇する。この連鎖は日本だけでなく世界的に起きており、米長期金利の上昇が日本に波及している。

③ 高市財政への市場の疑念

高市政権は「責任ある積極財政」を掲げているが、市場が今問うているのは「責任」と「積極」のどちらが前面に出るかだ。補正予算の検討表明、食料品消費税減税への言及——これらが重なると市場は「積極」の方を見てしまう。財政のリスクプレミアムが上乗せされ、金利を押し上げる。


5月28日の記事から何が変わったか

5月28日にこのシリーズで書いた数字と比べてみる。

指標5月28日時点7月7日時点変化
長期金利(10年債)約2.5%2.81%+0.31%
日銀 ETF含み益57.1兆円推定55〜58兆円株価次第
日銀 国債含み損45.4兆円推定55兆円超大幅拡大
ETF優位クッション11.6兆円ほぼ消滅〜逆転寸前急縮小

5月28日の記事で「1%上昇で国債含み損が数十兆円規模拡大」と書いた。植田総裁の国会答弁では「金利全般が1%上昇すると約40兆円の評価損」という試算だった。

5月の水準(約2.5%)から今の2.81%まで0.3%上昇した。単純計算で12兆円程度の含み損拡大だ。5月末時点で45.4兆円だった国債含み損は、足元では57〜58兆円前後に膨らんでいる可能性がある。

ETF含み益(57.1兆円)との差がほぼ消えた——あるいは既に逆転している。

5月28日に「逆転したとき何が起きるか」と書いた問いに、現実がじわじわと近づいている。


「3%」は遠い未来の話ではない

三井住友DSアセットマネジメントのシニアマクロストラテジスト・渡邊誠氏は、こう指摘している。

「長期金利3%到達は、近い将来のアップサイドリスクとして現実味を帯びてきた。今後も財政関連のイベントが相次ぐことを踏まえると、市場の神経質な状況が長引く可能性がある」

同社は以前の見通しで「2031年度末に2.80%」という中長期予測を出していたが、その水準にすでに今年到達してしまった。5年先の想定が、5年前倒しで現実になった。

NHKのニュースでは「今後インフレが加速するという見方や財政負担への懸念が広がったことから、国債を売る動きが強まった」と伝えている。外資系証券の市場関係者は「債券を積極的に買う投資家はおらず、長期金利は上昇基調が続く」と話している。

「誰も積極的に買わない」市場で、売り圧力だけが続いている。


金利上昇が家計に与える影響——今起きていること

長期金利2.81%は、数字だけ見ると遠い世界の話に見えるかもしれない。でも影響はすでに家計に届いている。

住宅ローン固定金利の上昇

フラット35の最多金利は今年に入り段階的に上昇しており、足元では3%台に乗せている。変動金利も日銀の政策金利引き上げ(6月に1.0%へ)を受けて上昇基調だ。35年ローンで3000万円を借りた場合、金利1%の差は月々の返済額で約1.6万円、総返済額で約660万円の違いになる。

国の利払い費の急増

財務省の試算では、長期金利が1%上昇するごとに国の利払い費は数年後に年間約3.5兆円増加する。税収が増えなければ、その分は新たな国債発行か歳出削減で賄うしかない。その判断が次の財政政策に影響し、また金利に跳ね返る——という循環が動き始めている。


このシリーズで見えてきた「一本の糸」

5月28日から4回にわたって書いてきた記事を振り返ると、一本の糸でつながっていることがわかる。

5月28日: 日銀のETF含み益57兆円 vs 国債含み損45兆円。クッションが薄くなっている。

6月22日: 日経平均72,000円。AIバブルと実態の両方が混在している。

6月26日: 円安161円の正体はドル高。日本だけの問題ではない。

7月7日(今日): 長期金利2.81%。骨太ショックと財政懸念が引き金になった。

この4つの数字を並べると、見えてくる構造がある。

日銀は金利を上げながらQTを進めている。国債含み損が膨らんでいる。財政は拡張方向に動いている。市場はそれを「日銀が動けなくなるのでは」と疑っている。疑念が金利を押し上げ、金利上昇が含み損をさらに拡大させる。

この循環が、現在進行形で動いている。


まとめ

  • 7月3日に長期金利が一時2.81%、1997年5月以来29年ぶりの高水準
  • 背景は「骨太ショック」(利上げ遅れへの懸念)+財政拡張警戒+中東原油高の3重苦
  • 5月末から約0.3%の上昇で、日銀の国債含み損は推定10〜12兆円拡大
  • ETF含み益との差はほぼ消滅、逆転寸前の状況
  • 専門家からは「長期金利3%は近い将来のリスク」という声が出始めている
  • 家計への影響は住宅ローン金利の上昇という形で、すでに現実になっている
  • 「骨太方針→補正予算→防衛費→来年度予算」と財政イベントが続く後半戦が、次の試練

七夕の今日、短冊に「金利よ下がれ」と書きたい気持ちは山々だが、市場はそう都合よく動いてくれそうにない。


参考:NHKニュース(2026年7月3日)、日本経済新聞(2026年5月・7月)、三井住友DSアセットマネジメント・渡邊誠氏マクロビュー(2026年5月・3月)、時事通信(2026年5月)

本記事は個人の見解に基づく情報提供を目的としており、投資判断の根拠とすることはご遠慮ください。


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