「円安」と呼ばれているもの、実は「ドル高」なのではないか

2026年6月26日 | 経済・金融政策


6月22日、ニューヨーク市場でドル円が一時161円93銭まで進んだ。

2024年7月3日につけた161円96銭にあと3銭まで迫る水準。39年半ぶりの安値ということで、SNSは「円安ヤバい」「もう何回目だこの記録」とざわついた。

ここまでは、いつものパターンだ。でも一つ、見落とされがちな視点がある。

これは本当に「円安」なのか。それとも「ドル高」なのか。

似たようなことに聞こえるが、実はまったく違う話だ。


「円」だけが弱いわけではない

ある為替ストラテジストの分析が興味深い。

現在のドル円上昇は、「円安」というよりも「ドル高」が主因だという見方だ。円は他の主要通貨と比較すると、実は3番目に強い水準にあり、投機的に売られているわけではないという。

つまり、円という通貨単体が「弱い」わけではない。世界の主要通貨を並べたとき、円は意外と踏ん張っている方なのだ。

では何が起きているのか。

答えは「ドルが、ほぼすべての通貨に対して強くなっている」ということだ。


ドル高の正体——FRBの利上げ期待

このドル高の背景にあるのが、米連邦準備制度理事会(FRB)による利上げ期待の高まりだ。

6月のFOMC(米連邦公開市場委員会)では政策金利の据え置きが決まったが、金利見通し(ドットチャート)では年内1回の利上げが予想されるなど、タカ派的な内容になった。これを受けて、年内2回の利上げを見込む声まで強まっている。

米国の2年国債金利が上昇するにつれ、ドルが他の通貨に対して全般的に買われている構図だ。日米の2年金利差とドル円の相関は介入後にさらに強まっており、金利差が0.1%拡大するごとに、ドル円が1.5円動く計算になるという。

つまり「日本側に何か問題が起きた」のではなく「米国側の金利が上がりそうだから、世界中のお金がドルに向かっている」というのが今の構図の本質に近い。


なぜ「円安」というラベルだけが目立つのか

ここで素朴な疑問が浮かぶ。

「ドル高」が正体なら、なぜニュースは「円安」とばかり報じるのか。

理由は単純だ。私たちの生活は円で営まれているからだ。輸入品の値段、ガソリン代、海外旅行のコスト——すべて「円がドルに対してどれだけ買えるか」という話に行き着く。だから生活者目線では、結局「円安」という言い方が一番ピンとくる。

ただ、ここで「円が弱いから自分たちが悪い」という発想に陥ると、本質を見誤る。日本が何か特別に失策をしたからこの状況になっているわけではなく、米国側の金利動向というグローバルな潮流に、円も他の通貨も一緒に巻き込まれているだけ、という側面が強い。


それでも、日本側の事情も無視できない

ただし「全部ドルのせい」と言い切るのも正確ではない。日本側にも円安を後押しする構造的な要因がある。

日本の国際収支を見ると、貿易収支、デジタル関連サービス収支、金融商品取引業者等の収支は、いずれも外貨買い・円売りを示唆しており、構造的な円安要因になっているとの指摘がある。

さらに日銀の金融政策も絡んでくる。4月の金融政策決定会合で日銀は利上げを見送ったが、これが「政策の後手」と批判される一因になった。その後6月の会合では政策金利を1.00%へ引き上げる決定をしたものの、円安基調はそれだけでは止まらない可能性が高いとの見方が出ている。

つまり「ドル高」という外的要因と、「日本の国際収支構造」「日銀の政策スピード」という内的要因が、両方絡み合って今の161円という水準を作っている。


介入は「効く」のか

ここで気になるのが、政府・日銀の為替介入だ。

実は今年すでに大規模な介入が行われている。4月末から5月の大型連休にかけて、月間ベースで過去最大となる11.7兆円の為替介入が実施された。これによりドル円は一時5円以上急落したが、ひと月で効果が切れ、再び160円台に戻ってしまった。

なぜ効果が続かなかったのか。理由は明確だ。介入は利上げを伴わなかったためだという指摘がある。2024年の経験では、介入と利上げがセットになったときにだけ、円キャリー取引の巻き戻しが起きてトレンドが転換した。今回は利上げのタイミングがズレたため、介入の効果が短期的にしか続かなかった。

6月22日の場面でも、片山財務相とベッセント米財務長官がオンラインで会談したと報じられた直後、為替介入への警戒感だけでドル円が161円93銭から161円08銭まで押し戻された。実際に介入が実施されたかどうかは不明だが、「警戒感」だけで80銭以上動いたという事実は、口先介入の威力を物語っている。


では、165円まで行くのか

今後の見通しについて、市場関係者の意見は分かれている。

ある見方では、金利差が10ベーシスポイント拡大するごとにドル円が1.5円動く計算上、わずかな米金利上昇でも162円台に達する可能性は十分にあるとされる。一方で、日米財務相間の協議が報じられるだけで市場が反応する状況を見ると、当局が「ここから先は本気で止める」という意思を見せれば、上値が抑えられる可能性もある。

巨額の介入は継続的には行えない一方、日本の国際収支は構造的な円安要因を抱えているため、介入によって一時的に相場が安定する場面はあっても、根本的なトレンドが反転するかどうかは予断を許さない、という分析が現実的なところだろう。


「円安」という言葉の奥にあるもの

ここまでの話をまとめると、見えてくる構図はこうだ。

  • ドルが世界中の通貨に対して強くなっている(FRBの利上げ期待)
  • その流れに、円も他の通貨と一緒に巻き込まれている
  • ただし日本固有の事情(国際収支構造、日銀の政策スピード)も、円安を後押ししている
  • 介入は「利上げとセット」でなければ効果が続かない

「円が弱い」という単純な物語ではなく、「世界的なドル高の波」と「日本固有の構造的要因」が重なって、今の161円という数字ができている。

ニュースの見出しは「円安161円」で統一されがちだが、その内側にある力学を分けて考えると、見え方が少し変わってくる。

円安は、円だけの問題ではない。世界中のお金が今どこに向かっているか、という大きな流れの中の一断面でもある。


【数字まとめ】

項目数値
6月22日 NY市場 ドル円最高値161円93銭
2024年7月の最高値(参考)161円96銭
4月末〜5月 為替介入規模約11.7兆円(月間過去最大)
介入後の効果持続期間約1ヶ月
日米金利差0.1%あたりのドル円変動約1.5円
6月日銀会合 政策金利1.00%へ引き上げ

参考:PIVOT(佐々木融氏インタビュー)、楽天証券トウシル(荒地潤氏)、三井住友DSアセットマネジメント(市川雅浩氏)、第一生命経済研究所(熊野英生氏)、野村證券ウェルスタイル(後藤祐二朗氏)(各2026年6月)

本記事は個人の見解に基づく情報提供を目的としており、投資判断の根拠とすることはご遠慮ください。



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