事実経緯
アメリカとロシアの間で核兵器の削減と制限を定めていた新戦略兵器削減条約(新START)が2026年2月5日、期限切れにより失効した。これにより、半世紀以上にわたって両国の核戦力を規制してきた軍縮の枠組みが消滅することとなった。
新STARTは2011年2月5日に発効し、当初の有効期限は10年間だったが、2021年に5年間の延長が決定されていた。しかし条約の規定により再延長は認められておらず、2026年2月4日をもって失効した。
条約は以下の内容を定めていた。
・配備可能な戦略核弾頭数を各国最大1,550発に制限
・大陸間弾道ミサイル(ICBM)、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)、戦略爆撃機の総数を800基(うち配備済みは700基)に制限
・相互査察の実施による検証体制
・データ共有と通告による透明性の確保
世界の核弾頭の約90%を保有する米ロ両国にとって、この条約は核軍拡競争を抑制し、両国間の信頼醸成に重要な役割を果たしてきた。
条約失効の背景には、近年の米ロ関係の急速な悪化がある。2022年のロシアによるウクライナ侵攻以降、両国の対立は決定的となった。ロシアは2023年2月、新STARTの履行停止を表明。その後、米国による査察を拒否し、データの共有も停止していた。こうした状況下で条約延長の交渉は事実上不可能となっていた。
指摘される問題点
専門家らは新START失効により、以下のリスクが高まると指摘している。
核軍拡競争の再燃
制限がなくなることで、米ロ両国が核戦力の増強に踏み切る可能性がある。特にロシアは戦術核兵器の増産を進めるとみられる。
透明性の喪失
相互査察とデータ共有がなくなることで、両国の核戦力に関する情報が不透明になり、誤算や誤解のリスクが高まる。
中国の核増強
米国防総省の推計によれば、中国の核弾頭数は2030年までに1,000発以上に達する見込み。トランプ大統領は「4、5年後には米国に追いつく」と指摘している。
核不拡散体制への悪影響
米ロという核超大国が軍縮の努力を放棄すれば、核兵器禁止条約(NPT)体制全体が動揺する恐れがある。
国連のグテレス事務総長は5日、声明を発表し、「核兵器使用のリスクは数十年間で最高レベルに達した」と警告。米ロ両国に対し、後継となる核軍縮の枠組みを早急に構築するよう求めた。
期待される効果
一方で、条約失効を新たな枠組み構築の契機と捉える見方もある。
トランプ大統領は5日、「新たな軍縮枠組みの構築」を目指す意向を示した。第1期政権時から主張してきた中国を含めた三国間軍縮交渉の実現に向け、米ロ両国は今後協議を開始する見通し。
現代の核バランスは冷戦期の米ロ二極構造から大きく変化しており、中国の核戦力増強を考慮しない枠組みは実効性に欠けるとの指摘がある。新STARTの失効は、時代に即した新たな多国間枠組みを構築する機会になる可能性がある。
また、プーチン大統領は2025年9月、失効後も条約が定める制限を1年間順守する用意があると表明している。この期間を利用して新たな枠組みの交渉が進展する可能性も残されている。
今後の展望
しかし、中国外務省の報道官は「遺憾の意」を表明する一方で、トランプ大統領が提唱する中国を含めた新たな核軍縮交渉への参加については否定的な姿勢を崩していない。中国は「米ロの核戦力は中国を大きく上回る」として、三国間交渉への参加を拒否し続けている。
中国の参加が得られない限り、実効性のある新条約の締結は困難とみられている。冷戦終結以降続いてきた核軍縮の流れは大きな転換点を迎え、新たな核軍拡の時代に突入する可能性が高まっている。
当面は核兵器に関する国際的な法的枠組みが存在しない状態が続く見通しで、国際社会は核リスクの増大に直面することとなる。
