2026年1月21日、奈良地方裁判所は、2022年に安倍晋三元首相を銃撃し殺害した罪などに問われた山上徹也被告(45)に対し、検察側の求刑通り無期懲役の判決を言い渡した。田中伸一裁判長は判決理由で、被告の不遇な生い立ちが犯行に与えた影響は限定的であると判断した。
事件の経緯
事件は2022年7月8日、奈良市の近鉄大和西大寺駅前で発生した。参議院議員選挙の応援演説中だった安倍元首相に対し、山上被告は手製の銃で2発を発砲。安倍元首相は搬送先の病院で死亡が確認された。
山上被告は殺人罪、銃刀法違反、武器等製造法違反などで起訴され、2025年10月の初公判で殺人罪の起訴内容を認めた。そのため、刑の重さが最大の争点となっていた。
判決の内容
田中裁判長は判決理由で以下の点を指摘した。
- 元首相という立場を狙った「極めて悪質な犯行」
- 多数の聴衆がいる現場で銃を発射した「高度な危険性」
- 手製銃は銃刀法の「拳銃等」に該当すると認定
- 生い立ちの不遇さは「遠因」にすぎず、殺人に至るには「大きな飛躍」があると判断
事件の背景—宗教2世問題
公判では、山上被告の生い立ちが詳しく審理された。被告が小学生のとき、母親が世界平和統一家庭連合(旧統一教会)に入信し、約1億円の献金をしたことで、一家は経済的に困窮した。
山上被告は旧統一教会に強い恨みを抱くようになり、「教会と関係が深い」と考えた安倍元首相を標的とした。被告は「旧統一教会に一矢報いるのが人生の意味」と述べていたという。
判決をめぐる問題点
「重すぎる」との批判
弁護側と支援者からは、判決が被告の生い立ちをほとんど考慮していないとの批判が出ている。旧統一教会の被害者救済に取り組む阿部克臣弁護士は「宗教2世にとって冷たい判決だ」と述べた。
奈良地裁前では傍聴人が「刑が重すぎる」「控訴して」とシュプレヒコールを上げる場面もあった。ある傍聴人は「社会問題の被害者が更生する道を絶つ判決だった」と語った。
「妥当」との評価
一方で、判決を妥当とする意見もある。検察側は「民主主義の根幹を揺るがす凶悪犯罪」として無期懲役を求刑していた。判決は、被告の生い立ちと犯行の間には「大きな飛躍」があると指摘し、「自己都合による意思決定」と認定した。
社会への影響と評価
この事件をきっかけに、日本社会では宗教2世問題への認識が大きく変化した。
- 旧統一教会に対する解散命令請求訴訟が東京地裁に提起された
- 宗教団体の献金問題や被害者救済のための法整備が議論されるようになった
- 「カルト対策」の重要性が広く認識された
- 埋もれていた宗教2世のSOSを掘り起こす動きが活発化した
大阪公立大学の専門家は「事件後、宗教をめぐる社会の変化を感じる」と述べている。
今後の展望
判決はまだ確定しておらず、弁護側が控訴する可能性がある。山上被告と面会を続けてきた宗教学者の桜井義秀氏によると、被告は判決に対する不服は語らなかったという。
旧統一教会に対する解散命令請求訴訟については、東京高裁の決定が3月までに出る可能性がある。ただし、専門家は「山上被告への判決が解散命令請求訴訟に直ちに影響するとは考えにくい」と分析している。
今回の判決は、犯罪の責任と社会的背景をどう考えるかという難しい問題を提起している。宗教2世問題への対応や、カルト対策の「空白」をどう埋めていくかは、今後も社会全体で取り組むべき課題となっている。
